ムクデン満鉄ホテル

1984年以降に開業。ムクデンとは満州族語で「栄える都」を意味する。オーナーが満州出身で当時の満州の建築を模したらしい。2010年に閉館した。
均整の取れたものは美しい。国道沿いにあり、なかなか目立つ。
周囲を一周。上方には朽ちた橋が見える。



ここは、廃への転換期を迎えていた。
清潔さを求められるホテル。
あってはならない粗相が、あちこちで繰り広げられている。
外から見るとそんなに痛んでいる感じもしないが、中と外のギャップが凄かった。
素敵な部屋だ。
これまた素敵なティーカップ。お湯が注がれることはもうない。
確実に崩壊は進む。無への回帰は始まっているのだ。
屋上は気持ちの良い潮風が吹き抜ける。
まるで、窓枠によって切り取られた三枚の水彩画。正面は初島。

このホテルについて調べたら、様々なことが分かった。まず右に見える奉天忠霊塔。

日露戦争の奉天会戦での戦没者(23000人)を祀った納骨堂のレプリカだという。本物は奉天にあったが敗戦で取り壊されてしまい、この伊豆の地に1/2サイズで再建されたものだ。
見このホテルは特殊だった。宿泊客も9割以上が満州の引き揚げ組だったという。宣伝もしないから、一般客はほぼ来ない。
橋の奥には、校歌の石碑が見える。

実は裏山には、当時の全ての在満学校(小学校~大学)100校以上の歌碑が、所狭しと並んでいる。オーナーの郷土愛は深かった。

宿泊客も自分の母校の歌碑を見つけて喜んだだろう。毎晩ラウンジでは満州に関わる物品に囲まれながら、宿泊客同士やオーナーとの間で、多くの語りと出会いの時間が紡がれたに違いない。


時代の波。遠い異国の地で生まれ、祖国を思う。どんな心持ちなのだろう。

中学の教科書にこんな短歌がある。
「生まれたら そこがふるさと うつくしき 語彙に苦しみ 閉じゆく絵本」
望郷の思いを綴ったものである。

Departure

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